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シンポジウム「美術教育、ゼロからの出発」

シンポジウム
◆9月24日(土) 16:10~17:30
◆2号館2F
◆テーマ:「美術教育、ゼロからの出発」
◆パネリスト
 金子一夫氏(茨城大学教授)
 降簱 孝氏(山形大学教授)
 新妻健悦氏(アトリエ・コパン主宰)
◆司会
 立原慶一(宮城教育大学教授)

▼シンポジウムのようすはUstreamで中継いたします

Live broadcasting by Ustream

<趣旨>
 第一に現代の日本社会から、小・中学校や民間施設における美術教育というものが一切消滅してしまったら、文化的、経済的、民族的にどのような損失や弊害が起こるのだろうか。第二にその探求を前提として、美術教育の実施が最後の一皮のみ残されたとして、これだけは是非残さなければならない体験内容と、育成しなければならない能力を見極める。一体何を重大な損失や弊害と捉えるかによって、何を伝達・指導すべきなのかの優先順位が変わってくる。ここに各人各様で美術教育観の相違が認められる。この論点をめぐってフロアーから認識論的なものばかりでなく、実践を奮起させるような意見が提起されることを期待する。
新妻健悦氏には美術活動の楽しみや喜び、ワクワク感の大切さ、美術に親しませることの意義という観点から、話を起こして頂く。金子一夫氏には美術は認知的であり、制作や鑑賞は認知能力であるという立場から、理論的並びに教育実践的に論じて頂く。降簱 孝氏には、教員の現実という立場から最低限必要な教員の力量とは何か、最小の時間で一人前の美術・図工科教師を育てる方法とは何かについて、お話しして頂くことになる。


<パネリスト発言要旨>
アトリエ・コパン主宰 新妻健悦
造形の各ジャンルを横断して、そこに共通してみられる仕組みを「A領域とB領域の二重構造」とする提案をした(1996年)。二重構造の考えは既に戦後の「現代美術」で提起された問題だが、教育現場への導入は少なかったようだ。拙論の「A・B、二重構造」は、子どもの観察から見出された二つの造形衝動、「具体像を求める衝動…A」「探索的衝動…B」を拠点とする。現場では「…A」を優先する子ども、「…B」に親和性を示す子ども、「…A…B」両者の特性を合わせ持つ子どもたちが想定される。二重構造を基軸とする実践により、苦手意識を軽減する教材開発の方法や、鑑賞や評価の多義的視点が展望される。また、「社会に機能する人」を養成する側面と、「個としての人」を保障すべき側面が浮上し、造形教育の立脚点が論議されることになるだろう。コミュニケーションや社会参加の表現として造形活動を括ると、伝達効率を優先させ却って自らの視覚世界を硬化させる危険を孕む。むしろ「個としての人」を保証する探索的活動を取り込むことで、子どもたちは本音を開示し、新しい視覚世界への接近を試そうとするようだ。はたして造形の再生力となるのか。はたまた生涯にわたり造形に親しむ子の支えとなりえるのか。              
             
シンポジウム関連展覧会、「アトリエ・コパン展」の趣旨(於・図書館ギャラリー)
「どの子も具体像を描く・作るのだろうか?」の疑問から、活動の方向を変えてみると、意外な子どもたちに出会う。彼らは線や色彩に敏感でかつ繊細に進めてゆく。しかし内容は判然としない非具象(抽象)だ。ところが他の子も目覚めたように誘われ出して夢中で取り組む。“解“の想定をやめて未知に向かって走ってみる。そんな探索活動を後押しして生まれた作品を基に、表現の原点に立ち返ってみたいと思う。

             
茨城大学教授 金子一夫
小・中学校や民間施設での美術教育がどのような形になるにせよ、美術が存在するかぎり美術教育も何らかの形で存在する。しかし、小・中学校での美術教育が無くなれば、社会全体の芸術的・知的活動が停滞するだけではなく、感情の抑圧を原因とする様々な事件がさらに発生するであろう。また、最終的に数学や英語で人間が救われるとは思えない。
小・中学校での美術教育が極小状態になった場合でも、美術の本質を踏まえ、しかも自然状態では全員には獲得できない活動が指導されるべきである。美術の本質とは視覚的感情像の意識、すなわち視覚的な美的体験である。児童生徒には視覚的な美的体験の分野があること、そして視覚的美的体験がどうすれば可能になるのかを体得させるべきである。美的体験とは美的直観(イメージ)と美的感情(感動)の融合とされる。つまり美的体験は感情像の体験である。この感情像は像の指示と感情表出との様々な度合いの重なりから成ると発表者は解釈する。それゆえ美的体験を感動とのみ捉えるのは不正確で、感情的な「像」の創出や感受と捉えるのが正確である。感動は美的体験の指標にはなるが教材化可能な実体を持たない。そこで美術教育は感情像を教材とする教育となる。感情像は表現主題としても在る。すなわち、表現以前にあっては美的体験を予行させる感情像、表現後にあっては美的体験や作品鑑賞によって再構成される感情像が表現主題である。
 学校教育は自然状態では全員に獲得できない価値や技能を獲得させる場である。児童生徒が自然状態で獲得するような内容をしている余裕はない。美術教育は感情像に関わる美術の方法論を体系的に指導していく教育となる。そしてその教育方法の要点は、美術の方法論を静的な知識として伝達するのではなく、動的な機能として体験的に理解させ、獲得させていくことである。もちろん、児童生徒の各年齢段階における想像力の実態に応じた教育内容が用意されるべきであるのは言うまでもない。

 
山形大学教授 降籏 孝 
学校教育現場における造形美術教育の課題
  ― 提案:今こそ陽と共に陰の部分にも光を当てるべき時 ―
1.学校教育現場が抱える問題点と課題について

 現在の学校教育現場には、いかなる問題点と課題があるのであろうか。特に造形美術教育の視点から考察してみると、東日本大震災のはるか以前から解決されずに積み残されている数々の問題点と共に解決すべき課題も存在していたのではなかろうか。今だからこそ、それらの問題点と課題に勇気を持って目を向けるべき時であり、それらへの追求と対応がなければ、美術教育の未来はないだろう。それを少しでも解消し解決することが、結果的にこれからの美術教育を明るい方向に大きく前進させることになると考える。それは美術教育における関連学会の使命と役割ではなかろうか。
(1)目に見える問題 ― 実質的な授業時間数の減少・専任教員の減少・施設費用の問題
(2)目に見えぬ問題 ― 学力問題を背景にした学力調査の影響・教科間格差・教科の立場
(3)造形美術教育における教育実践の陽と陰 
(4)大学生の受けてきた造形美術教育の実態から 
2.教員免許状更新講習の実施から見えてきたもの
3年前から本格実施されている教員免許状更新講習の実施によって、各地区の造形部会での研修会や附属学校などでの公開研究会等では見えなかったものが見えてきた。特に、学級担任として小学校全科の一つの教科として図画工作教育をも担っている教師たちの悩みと課題は少なくない。
(1)教員免許状更新講習の実際と内容
(2)教員免許状更新講習を受講された教師の実態
(3)小学校・図画工作教育の問題点と課題、担当する教師たちのジレンマ
(4)造形美術教育の底上げのために 更新講習・教員研修の役割
3.特定の課題に関する調査(図画工作・美術)から見えてくるもの
 今回、昭和33年以来約半世紀ぶりに、国立教育政策研究所によって図画工作・美術の学力調査が行われた。単なる実態調査ではなく、これからの造形美術教育の課題として受け止めたい。
(1)特定の課題に関する調査の意義
(2)調査の結果から見えてくるもの
(3)調査から見える造形美術教育実践の陽と陰
4.造形美術教育における問題点と課題
 素晴らしい教育実践の陰で、学校教育現場では多くの問題点と解決すべき課題が内在する。
 クラスの中に苦手意識があり図工・美術が嫌いな子ども達が少なからずいること。
 造形表現や図工の指導に対して苦手意識や不得意感を抱いている教師達がいること。
 一体作品作りの教科なのか、作品作りを通して学ばせる教科なのか。
 しかし作品の完成度・出来については、無視できない重要事項となっている現実。
 得意な一部の子どもための特殊な教科なのか、全ての子どものための教科なのか。
 造形美術教育では何を大切にして、どのような意義と役割があるのか。
5.造形美術教育における教育力とは
 学校教育現場に歴然として存在する造形美術教育の問題と課題について、それらを少しでも解決するためには具体的にどうすべきであろうか。またいかなる教育力が求められるのであろうか。
造形美術教育の意義と役割を自覚し、子どもに理解させることのできる教育力と教育観
一部の特定の子どもだけでなく全ての子どもの想いや願いに等しく寄り添える教育力
子ども達に寄り添いながら子ども自身に思考させ、表現を支えることの出来る教育力
重要な学習空間の質である潜在的なカリキュラムをより良くすることのできる教育力
一人一人の子どもの表現の良さをお互いに認め合い理解させることのできる教育力                                
etc.
学校現場の造形美術教育を元気にしていこう!!
by daigakuART | 2011-08-28 14:48 | シンポジウム


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